高齢者がトイレから立ち上がれない状態になると、「便座に座ることはできても一人では立てない」「壁やペーパーホルダーにつかまって何とか立っている」「家族が腕を引っ張らないとトイレから出られない」といった困りごとが起こります。
トイレは毎日何度も使用する場所であり、排泄のたびに立ち上がりで苦労すると、本人の負担だけでなく介助する家族の負担も大きくなります。また、夜間や急いでいるときに無理に立とうとすると姿勢を崩す可能性があるため、「まだ何とか立てているから大丈夫」と放置しないことが重要です。
高齢者が便座から立ち上がりにくくなる原因は、脚力の低下だけではありません。便座が身体に対して低すぎる、足を手前へ引けない、身体を支えられる手すりがない、膝や股関節に痛みがあるなど、身体とトイレ環境の両方が影響していることがあります。
厚生労働省では、介護保険の対象となる福祉用具として、洋式便器の上に置いて高さを補う腰掛便座や、電動式またはスプリング式で立ち上がりを補助する機能を持つ腰掛便座などを位置付けています。また、手すりの貸与や住宅改修による手すりの取り付けも制度上の対象となる場合があります。
ここでは、高齢者がトイレから立ち上がれないときに見直したいポイントをはじめ、便座の高さ、手すりの種類、立ち上がり方、介助するときの注意点、介護保険を利用できる可能性、急に立てなくなった場合の対応まで詳しく整理します。
高齢者がトイレから立ち上がれないときの対策
高齢者が便座から立ち上がれない場合は、本人の腕を家族が力任せに引っ張る前に、便座の高さ、足の位置、身体を支える場所などを確認しましょう。
公益財団法人テクノエイド協会の住宅改修情報でも、トイレでは手すりの取り付けや便座を高くして立ち上がりやすくする方法などが示されています。
本人の身体機能によって適した対策は異なりますが、立ち上がり動作そのものを楽にする環境を整えることで、自分でできる動作を残せる場合があります。
便座の高さを確認する
高齢者がトイレから立ち上がれない場合に、最初に確認したいポイントの一つが便座の高さです。便座が身体に対して低すぎると、座ったときに膝や股関節が深く曲がり、そこから身体を持ち上げるために大きな力が必要になります。
以前は問題なく使用できていた便器でも、脚力が低下したり膝や股関節の動きが悪くなったりすると、現在の身体状態には低すぎることがあります。特に便座から立つときに何度も反動をつける人や、両手で太ももを押している人では高さを確認してみましょう。
- 膝が深く曲がっていないか
- 足裏が床についているか
- 何度も反動をつけていないか
- 手で太ももを押していないか
- 低い椅子からも立ちにくいか
- 高めの椅子なら立てるか
ただし、高くすればするほど立ちやすいわけではありません。便座が高すぎて足裏が床へ十分につかなくなると、排泄中の座位が不安定になったり、立ち上がる際に足へ力を伝えにくくなったりする可能性があります。
本人が便座へ座った状態と立ち上がる状態の両方を確認し、足裏を安定させながら無理なく動ける高さを考えることが大切です。
補高便座を検討する
現在の洋式便器が低いために立ち上がりにくい場合は、既存の便器の上へ設置して座面を高くする補高便座を検討できます。便器そのものを交換せずに高さを補えることが特徴です。
厚生労働省では、洋式便器の上に置いて高さを補うものを「腰掛便座」として、介護保険における特定福祉用具販売の対象種目に位置付けています。一定の条件を満たす人では、制度を利用して購入できる可能性があります。
| 方法 | 特徴 | 確認点 |
|---|---|---|
| 補高便座 | 便座を高くできる | 本人に合う高さ |
| 便器交換 | 環境を変更できる | 工事や制度 |
| 昇降式便座 | 立位を補助できる | 身体状態との適合 |
| 手すり | 上肢も使える | 位置と高さ |
補高便座を選ぶときは、高さだけでなく既存の便器へ適切に固定できることも重要です。使用中にずれたり、座ったときにぐらついたりする状態では安全に使えません。
要支援・要介護認定を受けている場合は、先に自己判断で購入するのではなく、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員へ相談し、身体状態と便器に合った製品や介護保険の利用方法を確認するとよいでしょう。
トイレ用の手すりを設置する
脚の力だけでは便座から立ち上がりにくい高齢者では、適切な位置に手すりがあることで腕の力も利用でき、立ち上がりやすくなる場合があります。トイレ用手すりには壁へ取り付けるタイプだけでなく、床へ置くタイプや便器周辺へ設置するタイプもあります。
テクノエイド協会では、トイレ用簡易手すりを便器への立ち座りを補助する用具として紹介しており、壁設置型、床設置型、便器に設置するタイプなどが示されています。
- 壁へ固定するタイプ
- 床へ設置するタイプ
- 便器周辺へ置くタイプ
- 左右から支えられるタイプ
- 高さを調整できるタイプ
- 工事不要のタイプ
重要なのは、単に手が届く位置へ手すりを置くことではありません。本人が立つときにどの方向へ力を加えるのか、片手で押すのか両手で押すのかなどによって適切な位置や形が変わります。
壁へ固定する手すりは壁の強度なども関係するため、自己判断で取り付けず、必要に応じて福祉用具専門相談員や施工業者などへ相談しましょう。
足を手前へ引けるスペースを作る
便座から立ち上がる際には、足を適切な位置へ置き、上半身を前方へ移動させながらお尻を浮かせる動作が必要です。トイレ内が狭かったり、床へ物を置いていたりすると、足を手前へ引けず立ち上がりにくくなることがあります。
高齢者本人が便座の前方へ足を置いたまま、身体だけを真上へ持ち上げようとしている場合は、立ち上がり動作そのものが難しくなります。
| 確認する場所 | 問題 | 見直し方 |
|---|---|---|
| 便器前 | 物が置かれている | 足元を空ける |
| 足の位置 | 前へ出すぎている | 適切な位置を確認 |
| 床 | 滑りやすい | 床環境を見直す |
| 手すり | 遠すぎる | 位置を調整 |
| 扉 | 介助を妨げる | 動線を確認 |
ただし、足の位置は本人の身体状態や関節の動きによって適切な場所が異なります。膝や足首の動きに制限がある人へ、無理に足を後方へ引かせることは避けましょう。
本人がどの姿勢なら安全に立てるか分からない場合は、理学療法士や作業療法士などに実際のトイレ動作を確認してもらう方法があります。
ペーパーホルダーにつかまるのをやめる
手すりがないトイレでは、高齢者が立ち上がるためにペーパーホルダーやタオル掛け、洗面台などへ手をかけていることがあります。しかし、これらは身体を支えることを前提に設置された設備とは限りません。
立ち上がる瞬間には大きな荷重がかかることがあり、ペーパーホルダーなどが外れれば、そのまま身体のバランスを崩す可能性があります。
- ペーパーホルダー
- タオル掛け
- 軽い収納家具
- 便座のふた
- ドアノブ
- 不安定な棚
普段から本人が何につかまって立っているのか、家族が一度確認してみましょう。「壁に手をついているから大丈夫」と思っていても、実際には不安定な設備へ全体重をかけている場合があります。
身体を支える必要があるなら、荷重を受けることを想定した適切な手すりなどへ置き換えることが大切です。
昇降機能のある便座も検討する
便座を少し高くしたり手すりを設置したりしても立ち上がることが難しい場合には、立ち上がり動作を機械的に補助する便座を検討する方法もあります。
厚生労働省が定める腰掛便座には、電動式またはスプリング式で、便座から立ち上がる際に補助できる機能を持つものも含まれています。
| 方法 | 補助する内容 | 確認点 |
|---|---|---|
| 通常便座 | 補助なし | 自力で立てるか |
| 補高便座 | 座面を高くする | 足が床につくか |
| 手すり | 上肢で支える | 握る位置 |
| 昇降式 | 立ち上がりを補助 | 姿勢を保てるか |
ただし、便座が動けば誰でも安全に立てるわけではありません。座位を保てることや、立位へ移った後に姿勢を安定させられることなども重要です。
身体機能が大きく低下している場合は、福祉用具専門相談員やリハビリテーション専門職などへ相談し、本人の状態に適した用具か確認してから導入しましょう。
ポータブルトイレも選択肢にする
便座から立ち上がることに加えて、寝室からトイレまで歩くこと自体が難しくなっている場合には、居室やベッド周辺で利用するポータブルトイレを検討することがあります。
厚生労働省が定める特定福祉用具の腰掛便座には、便座やバケツなどで構成され、居室で利用できる移動可能な便器も含まれています。
- トイレまでの移動を減らせる
- 夜間の移動距離を短くできる
- 高さを選べる製品がある
- 肘掛け付きがある
- ベッド周辺へ置ける
- 排泄物の処理が必要
一方、ポータブルトイレは設置すれば終わりではなく、座面高さ、ベッドからの移乗方法、手すりの位置、排泄物の処理、においへの対策なども必要です。
夜間だけ利用する方法などもあるため、トイレまでの移動が危険になっている場合には、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員などへ相談して生活全体から検討しましょう。
介助方法を専門職に確認する
家族が毎回トイレへ付き添っている場合でも、本人の腕をつかんで力任せに引き上げる方法を続けることは避けたいところです。本人の肩や腕へ負担をかけるだけでなく、介助者も狭いトイレで腰を痛める可能性があります。
立ち上がり介助では、本人が自分で使える脚や腕の力を活用し、不足する部分だけを補助することが基本になります。ただし、麻痺や関節痛など身体状態によって方法が異なるため、一律の介助方法が全員に適しているわけではありません。
- 本人ができる動作を確認する
- 足の位置を整える
- 安定した手すりを利用する
- 腕だけを引っ張らない
- 介助者の腰にも注意する
- 専門職に方法を確認する
訪問リハビリテーションなどを利用している場合は、自宅のトイレで実際の動作を見てもらうと、本人に合った立ち方や手すりの位置を具体的に検討できます。
毎回家族が身体を持ち上げなければならない状態なら、介助技術だけで対応し続けず、便座や手すり、福祉用具を含めた環境改善を考えましょう。
トイレ用手すりは立ち方に合わせて選ぼう
トイレから立ち上がれない高齢者に手すりを設置する場合は、空いている壁へ適当に取り付けるのではなく、本人がどのように身体を動かしているかを基準に選ぶ必要があります。
テクノエイド協会では、トイレ用簡易手すりとして壁設置型、床設置型、便器に設置するタイプなどを紹介しています。また、介護保険では工事を伴わない一定の手すりが福祉用具貸与、工事を伴う手すりの取り付けが住宅改修の対象となる場合があります。
片手で支えるのか両手で押すのか、便器への移乗にも支えが必要なのかを確認し、本人の動作とトイレの広さに合う方法を検討しましょう。
縦手すりと横手すりの役割を考える
壁へ設置する手すりには、縦方向や横方向、L字型などさまざまな形があります。どれを選ぶかは、本人がどの位置で身体を支える必要があるかによって変わります。
例えば立ち座りの際に身体を引き寄せるような動作と、座位や移動中に横方向へ身体を支える動作では、使いやすい手すりの向きが同じとは限りません。
- 便座から手が届くか
- 立つ途中も握れるか
- 身体の向きに合うか
- 利き手側で使えるか
- 移乗にも利用するか
- 壁の強度が十分か
「高齢者用だからL字型」と形だけで決めるのではなく、実際の動作を確認して設置することが重要です。
壁へ固定する手すりでは下地や強度も確認する必要があるため、専門家へ相談して適切に施工してもらいましょう。
工事不要の手すりも検討する
賃貸住宅などで壁へ手すりを取り付けにくい場合には、工事を伴わない据え置き型などを検討できる場合があります。介護保険の福祉用具貸与では、一定の工事不要の手すりが対象種目に含まれています。
テクノエイド協会では、便器を挟んで固定するものや床へ設置するものなど、トイレで立ち上がりや座り込みを補助する手すりを紹介しています。
| 種類 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 壁固定型 | 安定させやすい | 工事が必要 |
| 床設置型 | 工事不要の製品がある | 設置スペース |
| 便器固定型 | 便器周辺で使える | 固定状態を確認 |
| 両側手すり | 両腕で押しやすい | 便器との幅 |
工事不要だから簡単に安全性を確保できるとは限りません。便器へ固定するタイプでは、便器自体の固定状態なども確認する必要があります。
トイレの広さによっては台座部分が足元や介助スペースを狭くする場合もあるため、設置後の動線まで確認しましょう。
本人が実際に使える位置へ設置する
手すりは、本人が座った位置から無理なく手を伸ばせることが重要です。遠すぎる手すりへ身体を大きく傾けてつかまろうとすると、立ち上がる前に姿勢を崩す可能性があります。
逆に近すぎたり低すぎたりすると、身体を前へ移動させるスペースを妨げる場合があります。
- 座った状態で届く
- 肩へ無理がない
- 立位まで握れる
- 足の位置を邪魔しない
- 衣服操作を妨げない
- 介助スペースを残す
トイレでは排泄そのものだけでなく、ズボンや下着の上げ下げ、便器への方向転換、立った後の姿勢保持など複数の動作があります。
便座から立つ瞬間だけではなく、トイレへ入り、衣服を操作し、座り、排泄後に立って退室するまでの流れ全体を確認して手すりの位置を決めましょう。
便座を高くするときは足元と安定性も確認しよう
便座を高くすると、膝や股関節を深く曲げる必要が減り、立ち上がりやすくなる場合があります。テクノエイド協会の住宅改修情報でも、トイレでは便座の高さを高くして立ち上がりやすくする方法が示されています。
しかし、高齢者の便座には一律の最適な高さがあるわけではなく、身長、下肢の長さ、関節の動き、筋力などによって使いやすい高さは異なります。
補高便座などを導入する場合には、立ち上がりやすさだけでなく、排泄中に安定して座れることや足裏が床へ接地することまで確認しましょう。
高くしすぎないようにする
便座が低いほど立ちにくいからといって、高くすればするほどよいわけではありません。高くしすぎると足裏が床から浮いたり、つま先しか接地しなかったりする場合があります。
足元が安定しなければ排泄中に身体が不安定になるだけでなく、立ち上がるときにも足へ十分に力を伝えにくくなります。
- 足裏が床につく
- 膝が窮屈でない
- 座位を保てる
- 便座からずり落ちない
- 立ち上がりやすい
- 衣服操作ができる
身長だけを基準に高さを決めるのではなく、本人が実際に座った状態を確認することが重要です。
高さ調整が必要な程度が分からない場合には、福祉用具専門相談員や理学療法士、作業療法士などへ相談しましょう。
補高便座は固定状態を確認する
補高便座は既存の洋式便器へ設置できる便利な用具ですが、製品と便器の組み合わせによって固定方法などが異なります。座ったときや立ち上がるときに動かないことを確認する必要があります。
特に高齢者が便座へ手をついて身体を押し上げる場合には、通常の座位以上の力が加わる可能性があります。
| 確認点 | 見る内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 高さ | 本人に合うか | 立ち座りの負担 |
| 固定 | ずれないか | 姿勢を安定させる |
| 便器 | 適合するか | 正しく設置する |
| 清掃 | 手入れできるか | 衛生を保つ |
| 足元 | 接地できるか | 立位につなげる |
補高便座を自分で加工したり、不安定な物を便座へ重ねたりして高さを出す方法は避けましょう。
介護保険の特定福祉用具として利用する場合は、制度に対応する事業者へ相談し、適切な製品を選定してもらう方法があります。
便器自体の変更も選択肢になる
長期的にトイレ環境を改善する場合には、補高便座だけでなく、本人に適した高さの洋式便器へ変更する方法を検討することもあります。
厚生労働省の介護保険に関するQ&Aでは、膝が十分に曲がらない場合や便座から立ち上がるのがつらい場合に、本人に適した高さにするため洋式便器を取り替える工事について、住宅改修の対象となり得る考え方が示されています。
- 現在の便座高さを確認する
- 必要な高さを検討する
- 手すり位置も合わせて考える
- トイレの広さを確認する
- 扉との位置関係を見る
- 介護保険の条件を相談する
便器を交換すると後から簡単には元へ戻せないため、本人の現在の状態だけでなく、介助スペースや今後の生活も考えて計画することが大切です。
住宅改修を検討する場合には、工事を始める前にケアマネジャーや自治体などへ介護保険の手続きを確認しましょう。
トイレでの立ち上がり介助は本人の力を活用しよう
高齢者がトイレから立てなくなると、家族は本人の両腕や脇を持って引き上げたくなります。しかし、狭いトイレで介助者が力任せに身体を持ち上げると、本人と介助者の双方が姿勢を崩す可能性があります。
厚生労働省の要介護認定に関する資料でも、「何かにつかまれば立ち上がることができる状態」と、「介護者が身体を支えたり引き上げたりしなければ立てない状態」は区別されています。
本人が手すりを使えば自分で立てるのか、身体の一部を支える必要があるのかを確認し、必要以上の介助を行わないことが大切です。
腕だけを引っ張って立たせない
便座に座った高齢者の正面に立ち、両手や腕を持って後方へ強く引く介助は、本人の肩や腕へ負担をかける可能性があります。介助者側も腰を曲げた姿勢で人の体重を受けることになり、腰痛につながりかねません。
本人が自分で身体を前方へ移動でき、足へ力を入れられるなら、その動きを利用することが重要です。
- 腕だけで引き上げない
- 本人の動きを確認する
- 足元を安定させる
- 手すりを活用する
- 急いで立たせない
- 無理なら専門職へ相談する
ただし、具体的な介助方法は麻痺の有無や関節の状態、認知機能、体格などによって異なります。文章だけを参考にして自己流で身体を持ち上げることは避けましょう。
毎日の排泄で介助が必要なら、訪問リハビリテーションや介護サービスなどを利用している専門職へ実際の動作を見てもらうと安心です。
立った後のふらつきにも注意する
トイレでは便座から立つことだけでなく、その後に衣服を整え、身体の向きを変えて出口まで移動する必要があります。立ち上がれた瞬間に手すりを離してしまうと、姿勢を崩す人もいます。
特に夜間や長時間座った後などは、立った直後にふらつきがないか確認し、姿勢が安定してから次の動作へ移りましょう。
| 場面 | 確認点 | 工夫 |
|---|---|---|
| 立つ前 | 足の位置 | 安定させる |
| 立ち途中 | 身体の傾き | 手すりを使う |
| 立った直後 | ふらつき | すぐ動かない |
| 衣服操作 | 両手を離すか | 支持方法を考える |
| 退室時 | 方向転換 | 動線を確保する |
ズボンや下着を上げるために両手を使う必要がある人では、その間に身体をどう安定させるかも考える必要があります。
立ち上がりだけを切り取るのではなく、排泄前後の一連の動作を安全に行える環境を作りましょう。
介助者が入れるスペースを確保する
本人だけでは立ち上がれず介助が必要な場合、トイレ内に介助者が安全な姿勢を取れるスペースがあることも重要です。便器と壁の間が狭すぎると、介助者が身体をひねりながら支えることになり負担が増えます。
テクノエイド協会の住宅改修情報でも、身体状態によって介助者が付く場合には、トイレに介助スペースを確保することが示されています。
- 便器周辺を片付ける
- 収納家具を減らす
- 扉の開閉方向を確認する
- 手すりとの干渉を見る
- 介助者が立てる場所を作る
- 退室動線を確保する
手すりを増やした結果、介助者が入れなくなったり、車いすから移乗するスペースがなくなったりしては本末転倒です。
将来的な身体状態の変化も含めてトイレを改修する場合には、ケアマネジャー、福祉用具専門相談員、リハビリテーション専門職などと一緒に検討するとよいでしょう。
手すりや補高便座は介護保険を利用できる場合がある
高齢者がトイレから立ち上がれないため福祉用具や住宅改修が必要になった場合、要支援・要介護認定を受けている人では介護保険を利用できる可能性があります。
厚生労働省によると、福祉用具貸与には手すりが、特定福祉用具販売には腰掛便座が含まれています。また、住宅改修では手すりの取り付けや洋式便器等への便器の取り替えなどが対象項目として示されています。
利用できる制度は設置方法や製品、本人の状態などによって異なるため、購入や工事を先に進めるのではなく、事前に相談することが大切です。
工事不要の手すりは貸与を確認する
厚生労働省が示す介護保険の福祉用具貸与の対象種目には手すりが含まれています。工事を伴わず床へ置いて使用するものなど、一定の条件を満たす手すりが対象になります。
テクノエイド協会の介護保険給付福祉用具情報では、便器やポータブルトイレを囲むように据え置き、座位保持や立ち上がり、移乗動作を補助する工事不要の手すりについても説明されています。
- 床置き型
- 便器周辺型
- 立ち上がり補助型
- 移乗を補助するタイプ
- 高さ調整できる製品
- 設置条件がある製品
貸与を利用できれば、身体状態が変わったときに別の用具へ変更しやすい場合があることもメリットです。
ただし、対象となる製品や利用条件は個別に確認が必要なので、担当のケアマネジャーや福祉用具貸与事業者へ相談しましょう。
補高便座は特定福祉用具販売を確認する
厚生労働省では、洋式便器の上に置いて高さを補うものを腰掛便座として、特定福祉用具販売の対象にしています。また、電動式またはスプリング式で立ち上がりを補助する機能を持つ腰掛便座も対象として定められています。
そのため、便座が低いことが原因で立ち上がりにくい高齢者では、身体状態に合えば介護保険を利用して補高便座などを購入できる可能性があります。
| 対策 | 介護保険上の区分例 | 相談先 |
|---|---|---|
| 工事不要手すり | 福祉用具貸与 | ケアマネジャー等 |
| 補高便座 | 特定福祉用具販売 | 販売事業者等 |
| 昇降式腰掛便座 | 特定福祉用具販売 | 販売事業者等 |
| 固定手すり | 住宅改修 | ケアマネジャー等 |
| 便器の変更 | 住宅改修の場合あり | 自治体等へ確認 |
同じように見える商品でも制度上の扱いが異なる可能性があるため、一般の店舗や通販で購入する前に確認することが重要です。
本人に必要な高さや機能を専門職と確認したうえで、制度の対象となる適切な製品を選びましょう。
固定手すりは住宅改修を相談する
壁などへ工事によって手すりを取り付ける場合には、介護保険の住宅改修を利用できる可能性があります。厚生労働省では、住宅改修の給付対象として手すりの取り付けを示しています。
トイレでは、便座からの立ち上がりだけでなく、便器への移乗や衣服の上げ下げ、出入口での移動などにも手すりが役立つ場合があります。
- 立ち上がる位置を確認する
- 握る高さを確認する
- 壁の強度を確認する
- 介助スペースを残す
- 扉との干渉を確認する
- 工事前に制度を相談する
住宅改修では事前の手続きが必要になる場合があるため、工事を完了してから相談するのではなく、計画段階でケアマネジャーや自治体へ確認してください。
本人の身体状態に合わない位置へ固定すると後から使いにくくなるため、できればリハビリテーション専門職などにも動作を確認してもらいましょう。
急にトイレから立てなくなった場合は身体の変化にも注意しよう
以前から少しずつ立ち上がりにくくなっていた場合と、昨日まで普通に便座から立てていた人が突然立てなくなった場合では対応が異なります。
急に立てなくなった場合には、「便座が低いからだろう」「高齢だから筋力が落ちた」と決めつけず、痛み、片側の手足の動かしにくさ、意識状態など身体の変化を確認することが重要です。
一方、徐々に立ちにくくなっている場合でも、歩行や入浴などほかの日常生活動作にも変化が出ていないか確認し、必要に応じて医療や介護の専門職へ相談しましょう。
急な脱力がある場合は速やかに対応する
突然トイレから立ち上がれなくなり、片方の手足に力が入らない、顔の左右に違いがある、言葉が出にくいなどの症状を伴う場合には、脳卒中など緊急性のある病気の可能性があります。
このような状態では、何度も立ち上がりを試させたり、家族が無理に歩かせたりせず、速やかな医療対応が必要です。
- 片側の手足が動かしにくい
- 言葉が出にくい
- ろれつが回らない
- 顔に左右差がある
- 急にふらつく
- 意識の様子がおかしい
便座から立てないという現象だけを見ると日常生活の問題に見えますが、「急に起きた変化」であることが重要な情報になります。
普段の立ち上がり状態を家族が把握しておくと、いつもと違う変化にも気づきやすくなります。
転倒後や強い痛みがある場合も注意する
高齢者が転倒した後から便座から立てなくなった場合や、立とうとすると股関節、腰、膝などに強い痛みが出る場合には、無理に立たせることは避けましょう。
骨折などが生じている可能性もあるため、足へ体重をかけられるか、腫れや変形がないかなどを確認し、必要に応じて医療機関へ相談します。
| 状態 | 確認すること | 対応 |
|---|---|---|
| 転倒後から立てない | 痛みや荷重 | 医療相談を検討 |
| 強い膝痛 | 腫れや動き | 無理に立たない |
| 股関節が痛い | 足を動かせるか | 医療相談を検討 |
| 片側の急な脱力 | 神経症状 | 速やかな対応 |
| 徐々に立てない | 生活全体の変化 | 専門職へ相談 |
認知機能が低下している人などでは、本人が痛みをうまく説明できない場合もあります。表情や足の動かし方が普段と違わないかを見ることも大切です。
転倒後の変化を単純な筋力低下として扱わず、けがの可能性を考えて対応しましょう。
徐々に立てなくなった場合も放置しない
数か月かけて徐々にトイレから立ち上がることが難しくなった場合には、加齢だけで済ませず、生活全体で身体機能の変化が起きていないか確認しましょう。
便座からの立ち上がり以外にも、椅子やベッドから立ちにくい、階段を避ける、歩く速度が遅くなるなどの変化が見られることがあります。
- 椅子からも立ちにくい
- ベッドから起きにくい
- 歩く距離が減った
- 階段がつらい
- 転倒が増えた
- 外出が減った
トイレだけの問題であれば便座や手すりの変更で改善する可能性がありますが、生活全体で動作が難しくなっている場合には身体機能についても確認する必要があります。
医師や理学療法士、作業療法士、ケアマネジャーなどへ相談し、運動、福祉用具、住宅環境、介護サービスなどを組み合わせて本人に適した支援を考えましょう。
便座と手すりを整えて安全に立ち上がれるトイレを作ろう
高齢者がトイレから立ち上がれないときは、本人の脚力だけを原因と考えず、まず便座の高さ、足の位置、手すりの有無、床の状態などを確認しましょう。便座が低すぎる場合には膝や股関節を深く曲げる必要があり、立ち上がりに大きな力が必要になります。高めの椅子なら立てるのにトイレだけ立てない場合は、便座の高さや周囲の環境が影響している可能性があります。
便座の高さが合わない場合には、既存の洋式便器へ設置する補高便座を検討できます。厚生労働省では、洋式便器の上に置いて高さを補う腰掛便座や、電動式またはスプリング式で立ち上がりを補助する腰掛便座を介護保険の特定福祉用具販売の対象種目として定めています。ただし、高くしすぎると足裏が床につかなくなるため、本人の身体に合った高さを選ぶことが重要です。
身体を支える場所が必要な人にはトイレ用手すりも有効な選択肢です。工事を伴わない一定の手すりは福祉用具貸与、壁などへ固定する手すりは住宅改修として介護保険を利用できる場合があります。本人が立つときにどこへ手を伸ばし、どの方向へ力をかけているのかを確認し、使いやすい高さや位置を専門職と検討しましょう。
一方、ペーパーホルダーやタオル掛けなどを手すり代わりにすることは避ける必要があります。これらは身体を支える荷重を想定した設備とは限らず、立ち上がる瞬間に外れる可能性があります。本人が何につかまって立っているのかを家族が確認し、必要であれば適切な手すりへ変更してください。
家族が毎回介助する場合にも、両腕を力任せに引っ張る方法を続けるのではなく、本人が残っている脚や腕の力を使える環境を整えることが大切です。介助が日常的に必要なら、理学療法士や作業療法士などに実際のトイレ動作を確認してもらい、本人と介助者の双方に負担が少ない方法を教わりましょう。
また、昨日まで自分で立てていた高齢者が突然トイレから立てなくなった場合には、環境だけの問題と考えないことが重要です。片側の手足に力が入らない、言葉が出にくい、転倒後から強く痛むなどの変化があれば速やかな医療対応を検討してください。徐々に立ち上がりにくくなっている場合も放置せず、便座、手すり、身体機能、介護サービスを総合的に見直し、安全に排泄を続けられる環境を整えていきましょう。


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