高齢者が椅子から立ち上がれない状態になると、「何度も反動をつけないと立てない」「テーブルにつかまってようやく立てる」「家族が腕を引っ張らないと立ち上がれない」など、日常生活のさまざまな場面で困るようになります。
椅子からの立ち上がりは、足の筋力だけで行う動作ではなく、足を適切な位置へ置き、上半身を前へ傾けて重心を移動し、下肢へ力を入れて身体を持ち上げるという一連の動きによって成り立っています。
そのため、立ち上がれなくなった原因は筋力低下だけとは限らず、椅子の座面が低すぎる、座面が柔らかく沈み込む、膝や股関節が痛い、身体を前へ傾けにくい、足を手前へ引けないなど、本人の身体状態と椅子の条件が重なっている場合があります。
国立長寿医療研究センターが紹介している椅子からの立ち座りでも、足を肩幅程度に開いて椅子側へ少し引き、軽くお辞儀をするように重心を前へ移動してから立つことがポイントとされており、立ち上がり方を見直すだけで動作しやすくなる人もいます。
一方で、昨日まで立てていた人が突然立ち上がれなくなった、片側の手足に力が入らない、強い痛みや発熱などを伴う場合には、単純な加齢や筋力低下と決めつけず、身体の異変として適切な医療につなげることも重要です。
高齢者が椅子から立ち上がれないときの対策
高齢者が椅子から立ち上がれないときは、家族が腕を強く引っ張って立たせる前に、椅子の高さ、肘掛け、足の位置、身体の傾け方などを確認しましょう。
厚生労働省の要介護認定における認定調査でも、椅子などからの立ち上がりは「つかまらないでできる」「何かにつかまればできる」「できない」というように、支えの必要性を含めて能力を確認する項目になっています。
本人が持っている力を生かしながら、椅子や手すりなど環境側を調整することで、家族が毎回身体を持ち上げなくても立ち上がりやすくなる場合があります。
座面が高めの椅子を試す
低い椅子から立ち上がるときには膝や股関節を深く曲げた状態から身体を持ち上げる必要があるため、下肢の筋力が低下している高齢者ほど立ち上がりにくくなる傾向があります。
国立長寿医療研究センターが紹介している椅子からの立ち座り運動でも、膝に痛みがある場合には座布団などによって座面を少し高くし、無理のない範囲で行う方法が示されています。
- 深く沈み込まない
- 足裏が床につく
- 膝を深く曲げすぎない
- 立ち上がるときに安定する
- 座った姿勢も保ちやすい
- 本人の体格に合っている
ただし、座面は高ければ高いほどよいわけではなく、高すぎて座ったときに足裏が十分床につかない状態では姿勢が不安定になる可能性があります。
現在の椅子が低い場合には、本人が座ったときの足の位置や立ち上がり動作を確認し、安全に座れて立ちやすい高さを探しましょう。
肘掛け付きの椅子を選ぶ
脚の力だけでは立ち上がりにくいものの、手で支えれば立てる高齢者には、安定した肘掛けが付いた椅子が役立つ場合があります。
厚生労働省の介助に関する資料でも、自力で立ち上がれる人については本人の能力を生かし、椅子にはアームレストが付いた安定したタイプを使用する方法が示されています。
| 椅子の部分 | 確認ポイント | 避けたい状態 |
|---|---|---|
| 肘掛け | しっかり押せる | ぐらつく |
| 座面 | 適度な高さ | 低すぎる |
| クッション | 沈み込みすぎない | 柔らかすぎる |
| 脚 | 床で安定する | 滑りやすい |
| 背もたれ | 座位が安定する | 姿勢が崩れる |
立ち上がる際に肘掛けへ体重をかけるため、軽量で簡単に動いてしまう椅子や、肘掛けがぐらついている椅子では転倒につながるおそれがあります。
本人が普段使用する場所へ椅子を置き、実際に両手で肘掛けを押しても椅子が動かず、安全に立ち上がれるかまで確認しましょう。
足を少し手前へ引く
椅子の前方へ足を投げ出した状態では、立ち上がるときに身体の重心を足の上へ移動しにくくなるため、十分な筋力があっても立ちにくくなることがあります。
国立長寿医療研究センターが示している椅子からの立ち座りでは、足を肩幅程度に開き、足を椅子側へ少し引いてから立ち上がる方法が紹介されています。
- 足を肩幅程度に開く
- 足を少し手前へ引く
- 足裏を床につける
- 身体を前へ移動する
- ゆっくり立ち上がる
ただし、膝や足首の動きに制限がある人や、片側に麻痺がある人などでは一般的な足の位置が適しているとは限りません。
本人が足を引くと痛みを感じたり、かえってバランスが悪くなったりする場合には無理に同じ姿勢を取らせず、理学療法士などの専門職へ相談しましょう。
上半身を前へ傾けてから立つ
椅子から立ち上がろうとしても、お尻が座面から離れず、そのまま後ろへ戻ってしまう高齢者では、身体の重心を十分前方へ移せていない場合があります。
国立長寿医療研究センターでは、背筋を伸ばしながら軽くお辞儀をするように重心を前方へ移動し、その後ゆっくり立ち上がる方法を椅子からの立ち座りのポイントとして示しています。
| 動作 | 意識すること | 注意点 |
|---|---|---|
| 座位 | 姿勢を整える | 浅すぎない |
| 足 | 少し手前へ引く | 痛みを確認 |
| 前傾 | 軽くお辞儀する | 勢いをつけすぎない |
| 離臀 | 足へ体重を移す | ふらつきに注意 |
| 立位 | ゆっくり伸びる | 安定を確認 |
勢いよく何度も身体を振って反動だけで立とうとすると、立ち上がった直後にバランスを崩す可能性があるため注意が必要です。
前へ身体を傾けること自体が難しい場合には、股関節や体幹の動きなど別の問題が関係している可能性もあるため、無理に前傾させるのではなく専門職へ相談しましょう。
柔らかすぎる椅子を避ける
ふかふかしたソファは座っている間は楽に感じても、座面が大きく沈み込むと立ち上がる際にお尻の位置が低くなり、高齢者には立ちにくくなる場合があります。
さらに深く座るタイプのソファでは、お尻が背もたれ側へ入り込み、立ち上がる前に身体を座面の前方まで移動させる動作が必要になります。
- 座面が沈みすぎない
- 身体が後ろへ入り込まない
- 足裏を床につけられる
- 肘掛けを利用できる
- 椅子自体が動かない
クッションを追加して高さを調整する方法もありますが、柔らかいクッションを何枚も重ねると座面がずれたり姿勢が不安定になったりすることがあります。
毎回立ち上がるのに苦労する椅子がある場合には、本人の努力だけで対応するのではなく、日常的に使用する椅子そのものを安定したものへ変更することも検討しましょう。
安定した手すりを利用する
肘掛けだけでは十分に身体を支えられない場合には、立ち上がりを補助するための手すりを利用する方法があります。
介護保険の福祉用具には、床へ置いて使用し、転倒予防や移動、移乗動作を補助することを目的とした工事不要の手すりなども含まれています。
| 支え | 特徴 | 確認点 |
|---|---|---|
| 椅子の肘掛け | 両手で押しやすい | 椅子の安定性 |
| 据え置き手すり | 立ち上がりを補助 | 設置位置 |
| 固定手すり | 安定しやすい | 住宅環境 |
| 歩行器等 | 移動にも利用 | 専門職へ相談 |
テーブルの端やキャスター付き家具など、本来身体を支える目的ではない物へ強くつかまると、家具が動いたり倒れたりして転倒する危険があります。
手すりを導入する場合には、本人がどちらの手でつかむか、どの位置なら力を入れやすいかなどを確認し、必要に応じてケアマネジャーや福祉用具専門相談員へ相談しましょう。
家族が腕を強く引っ張らない
高齢者がなかなか立ち上がれないと、介助する家族は正面から両手を握り、そのまま腕の力で引き上げたくなることがあります。
しかし、本人の身体を力任せに持ち上げる介助は本人が持っている能力を生かしにくいうえ、介助者自身の腰などにも大きな負担がかかります。
- 本人の動きを確認する
- 足の位置を整える
- 前傾できるか確認する
- 安定した支えを使う
- 無理な抱え上げを避ける
- 必要なら福祉用具を使う
厚生労働省の介助に関する資料でも、人力による抱え上げを原則として行わず、利用者の残っている機能を生かし、不足する部分について福祉用具を利用する考え方が示されています。
家族一人では支えきれない状態になっている場合には、無理な介助を繰り返さず、理学療法士、作業療法士、ケアマネジャーなどへ安全な介助方法を相談しましょう。
立ち上がった直後のふらつきにも注意する
椅子から何とか立てるようになっても、立ち上がった直後にふらつく高齢者では、そのまま歩き出すことで転倒する可能性があります。
立ち上がることと安定して立っていられることは別の能力であり、厚生労働省の要介護認定における認定調査でも「立ち上がり」と「両足での立位保持」は別の項目として確認されています。
| 状態 | 確認すること | 対応例 |
|---|---|---|
| 立てる | ふらつかないか | 一度静止する |
| 支えが必要 | 安定した物か | 手すりを検討 |
| すぐ座る | 痛みや力の入り方 | 専門職へ相談 |
| 歩き出せない | 歩行能力 | 身体状態を確認 |
立ち上がったらすぐ歩かせるのではなく、身体が安定していることを確認してから移動を始めるようにすると安全性を高められます。
立位を保つこと自体が難しい場合には、椅子だけを高くして解決しようとせず、身体機能や歩行能力を含めて医療・介護の専門職へ相談することが大切です。
立ち上がれない原因を確認して対策を選ぶ
高齢者が椅子から立ち上がれなくなると「足の筋力が落ちたから」と考えがちですが、実際には筋力以外にも痛み、関節の動かしにくさ、バランス、椅子の高さなどさまざまな要因が関係します。
原因を確認しないまま筋力トレーニングだけを始めたり、家中の椅子を高くしたりしても、本人が困っている理由と合っていなければ十分な改善につながらないことがあります。
いつから立ちにくくなったのか、どの椅子なら立てるのか、手すりがあれば立てるのかなどを観察すると、問題を整理しやすくなります。
下肢の筋力が低下している
椅子から立ち上がるときには太ももやお尻など下肢の筋肉を使うため、活動量の低下などによって筋力が落ちると立ち上がりが難しくなることがあります。
国立長寿医療研究センターでも高齢者のリハビリテーションで筋力や歩行、バランスなどを評価し、状態に応じて筋力増強運動などを行っています。
- 何度も反動をつける
- 階段もつらくなった
- 歩く速度が遅くなった
- 外出が減った
- 立った姿勢を保ちにくい
- 以前より疲れやすい
ただし、立てないほど筋力が低下している人へ自己流で何度も立ち座りを繰り返させると、転倒や痛みにつながる可能性があります。
運動を始める場合には本人の体調や身体機能に合わせ、必要に応じて医師や理学療法士などへ相談して安全に行える内容を確認しましょう。
膝や股関節に痛みがある
十分な筋力があっても、立ち上がる瞬間に膝や股関節へ痛みが出ると、本人が無意識に力を入れることを避けて立てなくなる場合があります。
国立長寿医療研究センターが紹介する椅子からの立ち座りでも、膝に痛みがある人については座面を少し高くし、無理のない範囲で行うよう示されています。
| 症状 | 確認すること | 対応 |
|---|---|---|
| 膝が痛い | 立つ瞬間の痛み | 無理を避ける |
| 股関節が痛い | 左右差 | 医療機関へ相談 |
| 足首が動きにくい | 足を引けるか | 専門職へ相談 |
| 腰が痛い | 前傾できるか | 原因を確認 |
痛みを我慢して立ち座りを何十回も行えばよいわけではなく、痛みが強い場合や長く続く場合には原因を確認することが先です。
突然強い痛みが出た場合や転倒後から立てなくなった場合には、骨折などの可能性も考えて適切な医療につなげましょう。
椅子が身体に合っていない
食卓の椅子からは立てるのにリビングのソファからは立てないという場合には、身体能力そのものより椅子の条件が大きく影響している可能性があります。
座面が低い、柔らかく沈む、奥行きが深い、肘掛けがないなどの条件が重なると、立ち上がる前の姿勢を作ること自体が難しくなります。
- 座面の高さ
- 座面の硬さ
- 座面の奥行き
- 肘掛けの有無
- 椅子の安定性
- 足裏が床につくか
本人がよく使う食卓、リビング、寝室などの椅子をそれぞれ確認すると、特定の場所だけで立ち上がれないことに気づく場合があります。
身体能力だけを問題にするのではなく、本人が立ちやすい椅子の条件を把握して生活環境を統一していくことも重要です。
立ち上がりやすい椅子は高さだけで選ばない
高齢者向けの椅子を探すときには座面の高さに目が向きやすいものの、実際の立ち上がりやすさは高さだけで決まるわけではありません。
肘掛けへ力をかけても動かない安定性、身体が沈み込まない座面、足を適切な位置へ置ける奥行きなども確認する必要があります。
本人の身長や脚の長さ、膝の動きなどによって適した椅子は異なるため、「高齢者用」と表示されているだけで決めず、可能なら本人が実際に座って立つ動作まで試しましょう。
足裏が床につく高さを確認する
低い椅子では立ち上がりに必要な力が大きくなりやすい一方、高すぎる椅子では座ったときに足が浮き、姿勢が安定しにくくなる可能性があります。
そのため、本人が椅子へ深く座った状態と立ち上がるために少し前へ移動した状態の両方を確認し、足裏を床へ安定して置けるかを見ることが大切です。
- 両足が床につく
- 足を手前へ引ける
- 膝が極端に曲がらない
- 座位が安定する
- 立つ動作へ移りやすい
市販の高さ調整用クッションなどを使用する場合には、立ち上がるときにクッションが滑らないか、座っている間に姿勢が崩れないかも確認しましょう。
本人に合う高さが判断できない場合には、理学療法士や作業療法士、福祉用具専門相談員などへ相談すると、身体機能を踏まえて検討できます。
肘掛けの高さも確認する
肘掛け付きの椅子でも、位置が低すぎたり高すぎたりすると十分に力を入れられず、立ち上がりを補助する役割を果たせないことがあります。
本人が肘掛けへ自然に手を置き、立つときに下方向へ押す力をかけられるかを実際に確認しましょう。
| 確認項目 | 使いやすい状態 | 注意点 |
|---|---|---|
| 位置 | 自然に手が届く | 遠すぎない |
| 高さ | 押しやすい | 肩が上がりすぎない |
| 太さ | 握りやすい | 細すぎない |
| 強度 | 体重を支えられる | ぐらつかない |
| 左右 | 必要に応じ両側 | 身体状態に合わせる |
肘掛けへ体重を預けた瞬間に椅子が動くと危険なため、肘掛け単体ではなく椅子全体の安定性を見る必要があります。
片側に麻痺や痛みがある人では左右の使い方も変わるため、一般的な方法を無理に当てはめず専門職へ確認しましょう。
回転椅子やキャスター付きには注意する
立ち上がるときに手で強く押す必要がある高齢者では、座面が回転する椅子やキャスター付きの椅子は動作時に動いてしまう可能性があります。
本人が椅子へ体重をかけた瞬間に座面や脚が移動すると、身体を支える場所を失って転倒する危険があるため、立ち上がりの支えとして使う椅子は安定性が重要です。
- 脚が動かない
- 座面が回転しない
- 肘掛けが固定されている
- 床との相性がよい
- 体重をかけてもぐらつかない
テクノエイド協会でも、歩行車など動く可能性がある用具を手すり代わりにして立ち上がる際には、不意に動くことで転倒につながる危険性を紹介しています。
日常的に立ち上がりへ支えが必要な場合には、たまたま近くにある家具へつかまるのではなく、身体を支えることを想定した安定した椅子や手すりを用意しましょう。
家族の介助だけで難しい場合は福祉用具や専門職を頼る
高齢者が自分の力だけでは椅子から立てなくなった場合、家族が毎回身体を抱えて立たせる方法を続けると、本人だけでなく介助する家族にも大きな身体的負担がかかります。
厚生労働省では介助時の人力による抱え上げを避け、本人が持っている能力を活用しながら、不足する部分には福祉用具を積極的に使用する考え方を示しています。
手すりや移乗を補助する用具など複数の選択肢があるため、本人の立位保持能力や住環境を専門職に確認してもらうことが重要です。
据え置き型の手すりを検討する
椅子の肘掛けだけでは立ち上がれないものの、しっかりした支えにつかまれば自分で立てる人には、床へ置くタイプなどの手すりを検討できる場合があります。
テクノエイド協会が掲載する介護保険給付福祉用具の情報でも、工事を伴わず床へ置くことで転倒予防や移動、移乗動作を補助する手すりが対象として示されています。
- 本人が握りやすい位置
- 立ち上がり時に動かない
- 足元の邪魔にならない
- 生活動線を妨げない
- 身体状態に合っている
- 適切に設置されている
手すりは設置すれば必ず安全になるわけではなく、位置が遠すぎると身体を前へ引っ張りすぎたり、足元のベース部分につまずいたりする可能性もあります。
介護保険を利用している場合には、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員などへ相談し、実際の椅子と生活環境を確認したうえで選びましょう。
立ち上がり補助用具を検討する
自分だけでは立ち上がれないものの、立った後はある程度姿勢を保てる人では、身体能力に応じて立ち上がりや移乗を補助する福祉用具を使用することがあります。
厚生労働省の介助に関する資料でも、自力での立ち上がりが難しい人では、能力を評価したうえで福祉用具を積極的に利用することが示されています。
| 状態 | 検討する支援 | 相談先の例 |
|---|---|---|
| 手で押せば立てる | 肘掛け・手すり | 福祉用具専門相談員 |
| 支えがあれば立てる | 据え置き手すり等 | ケアマネジャー等 |
| 自力では難しい | 移乗支援用具等 | 医療・介護専門職 |
| 立位保持も難しい | 介助方法全体を検討 | 理学療法士等 |
本人の状態に合わない用具を自己判断で使用すると、立ち上がった後に転倒したり、介助者が操作しきれなかったりする可能性があります。
本人がどこまで自力でできるかを評価してもらい、介助者も安全に使用できる用具を選ぶことが大切です。
リハビリ専門職へ相談する
立ち上がれない原因を家族だけで判断することが難しい場合には、理学療法士や作業療法士などに実際の動作を見てもらう方法があります。
国立長寿医療研究センターのリハビリテーションでも、身体機能や転倒リスク、日常生活動作を評価し、筋力増強運動や福祉用具の評価・提案などを状態に応じて行っています。
- 立ち上がり動作の確認
- 筋力やバランスの評価
- 椅子の高さの確認
- 手すりの検討
- 安全な介助方法
- 運動方法の提案
「筋力をつければよい」と考えて自己流のスクワットなどを始めるより、どの部分が立ち上がりを難しくしているのかを確認したほうが具体的な対策を立てやすくなります。
介護サービスを利用している場合にはケアマネジャーへ相談し、必要に応じて訪問リハビリテーションなど利用できる支援を確認しましょう。
急に立ち上がれなくなったときは身体の異変を見逃さない
数か月かけて徐々に立ち上がりが難しくなった場合には筋力や関節、生活環境など複数の原因を検討しますが、急に立てなくなった場合には考え方を変える必要があります。
高齢者では体調の変化によって身体機能が急激に低下することもあり、「昨日までは一人で立っていたのに今日は全く立てない」という変化を単なる老化として扱わないことが重要です。
特に転倒後、強い痛み、片側の手足の異常などを伴う場合には、椅子を高くして様子を見るのではなく、症状に応じて医療機関への相談や緊急対応を検討しましょう。
突然立てなくなった場合は状態を確認する
高齢者が突然椅子から立ち上がれなくなった場合には、まず本人へ痛みや体調不良がないかを確認し、いつから変化したのかを把握しましょう。
身体の片側に力が入りにくい、言葉が出にくいなど脳卒中を疑う症状が突然現れている場合には、様子を見るのではなく速やかな救急要請が必要になることがあります。
- 突然立てなくなった
- 片側の手足に力が入らない
- ろれつが回らない
- 意識の状態がおかしい
- 強い胸痛や息苦しさがある
- 急激に体調が悪化した
一方で、発熱や脱水など別の体調変化によって全身が弱っている可能性もあるため、急な変化では本人の様子を総合的に確認することが大切です。
家族が原因を特定しようとして長時間様子を見るのではなく、緊急性が疑われる症状があれば適切な医療へつなげましょう。
転倒後に立てない場合は無理に起こさない
高齢者が転倒した後に自分で立ち上がれなくなっている場合には、家族一人で急いで抱き起こす前に、痛みやけがの状態を確認する必要があります。
厚生労働省の介助に関する資料でも、転倒した人をすぐに起こすのではなく、まず打撲や骨折などが生じていないかを確認し、一人で無理に起こそうとしないよう示されています。
| 状態 | 避けたい対応 | 基本の考え方 |
|---|---|---|
| 強い痛み | 無理に立たせる | けがを確認 |
| 脚の変形 | 歩かせる | 医療につなぐ |
| 頭を打った | すぐ通常生活へ戻す | 状態を確認 |
| 一人で起こせない | 力任せに抱える | 適切な援助を求める |
特に股関節周辺の強い痛みや脚の変形などがある場合には、骨折の可能性も考えて無理に歩かせないことが重要です。
転倒を繰り返している場合には、その場で起こして終わりにせず、転倒原因や身体機能、住環境について医師やリハビリ専門職などへ相談しましょう。
徐々に悪化している場合も相談する
急な変化ではなくても、「半年前は手を使わず立てたのに、今は両手でテーブルを押さないと立てない」というように徐々に能力が低下している場合には注意が必要です。
厚生労働省の要介護認定の調査でも、椅子などから立つ能力について、支えなしでできるか、何かにつかまればできるか、介助が必要かという違いを確認しています。
- 立つ回数が減った
- 外出が減った
- 階段も難しくなった
- 歩行が遅くなった
- 何かにつかまることが増えた
- 家族の介助量が増えた
立ち上がりの低下が進むと、トイレや入浴、外出などほかの日常生活にも影響するため、完全に立てなくなってから対策を始めるより早い段階で相談するほうが環境を整えやすくなります。
かかりつけ医や地域包括支援センター、ケアマネジャーなどへ現在の変化を伝え、必要に応じて身体機能の評価や介護サービス、福祉用具について相談しましょう。
本人の力を生かしながら安全に立ち上がれる環境を整えよう
高齢者が椅子から立ち上がれないときには、単純に脚の筋力が弱くなったと決めつけず、椅子の高さや柔らかさ、肘掛けの有無、足の位置、身体を前へ傾けられるか、膝や股関節に痛みがないかなどを一つずつ確認することが大切です。
低く沈み込む椅子から立つことが難しい場合には、足裏を床へつけられる範囲で座面を調整し、安定した肘掛けのある椅子を検討すると、本人が持っている力を利用して立ち上がりやすくなる場合があります。
立ち上がる際には、足を少し手前へ引き、軽くお辞儀をするように身体を前へ移してから立つという基本的な動きも確認し、勢いだけで何度も反動をつけたり、不安定な家具につかまったりしないよう注意しましょう。
家族の介助が必要な場合にも、腕を強く引っ張ったり身体を毎回抱え上げたりする方法だけに頼らず、本人がどこまで自力で動けるかを確認し、必要に応じて手すりや移乗支援用具などの福祉用具を活用することが重要です。
また、突然立ち上がれなくなった場合、転倒後から立てない場合、片側の手足に力が入らないなど急な異変を伴う場合には、椅子や筋力の問題と自己判断せず、症状に応じて速やかに医療へつなげる必要があります。
徐々に立ち上がりが難しくなっている場合も、完全にできなくなるまで家族だけで対応するのではなく、かかりつけ医、理学療法士や作業療法士、ケアマネジャー、福祉用具専門相談員などへ相談し、本人ができる動作を保ちながら安全に生活できる環境を整えていきましょう。


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