高齢者が自宅の階段を上り下りする姿を見て、「足を踏み外さないだろうか」「途中で力が入らなくなったら危ない」「手すりを付けたほうがよいのでは」と心配になる家族は少なくありません。
以前は何気なく使っていた階段でも、加齢によって脚の筋力やバランス能力が低下したり、膝や股関節に痛みが出たりすると、一段ずつ身体を持ち上げる上り動作や、身体を支えながら足を下ろす下り動作が大きな負担になることがあります。
特に注意したいのは、階段を上れるからといって安全に下りられるとは限らないことです。下りでは身体を下方向へ移動させながら次の段へ足を置く必要があり、足元が見えにくい、膝で身体を支えにくい、身体が前方へ流れるといった状態があると不安定になりやすくなります。手すりを握る、十分な明るさを確保する、滑りやすい物を置かないなど、階段そのものの環境を整えることが重要です。
また、階段の上り下りが急に難しくなった場合や、片脚へ力が入りにくい、強い痛みがある、何度も転びそうになるといった状態では、単に「年齢のせい」と考えないことも大切です。身体状態に変化が起きている可能性があるため、必要に応じて医療機関や理学療法士などへ相談し、安全な移動方法を確認する必要があります。
ここでは、高齢者が階段を上り下りするときに取り入れたい対策をはじめ、手すりの使い方、照明や滑りへの対策、杖を使用している場合の注意点、介助するときの考え方、階段を使わない生活への変更、介護保険を利用した住宅改修まで詳しく整理します。
高齢者が階段を上り下りするときの対策
高齢者の階段対策で最初に考えたいのは、本人へ「気をつけて」と注意を促すことだけではなく、多少足元が不安定になっても転倒や転落につながりにくい環境を作ることです。国土交通省の建築設計基準でも、階段などでは転倒防止や移動の補助を目的として手すりを設け、できる限り連続させる考え方が示されています。
厚生労働省が高年齢労働者向けに示している安全対策でも、階段への手すりの設置、照度の確保、滑りやすい場所への防滑素材の採用などが挙げられています。対象は職場ですが、高齢者の身体特性を踏まえた転倒対策という点では家庭の階段を考える際にも参考になります。
手すり、照明、履物、階段上の物、本人の歩き方を一つずつ確認し、複数の対策を組み合わせましょう。
手すりを使って一段ずつ移動する
高齢者が階段を上り下りするときは、手すりを利用して身体を支えながら移動できる環境を整えることが基本です。階段では一段ごとに身体の重心位置が変化するため、脚だけで身体を支えることが難しくなった人では、手すりが移動時の支持として役立つ場合があります。国土交通省の建築設計基準でも、階段などに設ける手すりについて、利用時の動作を考慮した位置に設置し、握りやすさや十分な強度を確保する考え方が示されています。
ただし、手すりが付いていれば自動的に安全になるわけではありません。本人が握りにくい太さだったり、必要な位置まで連続していなかったり、ぐらついていたりすると十分に身体を支えられません。階段の途中だけに短い手すりがあり、最初や最後の一歩では壁につかまっているという家庭もあります。
- 握りやすい位置にある
- 階段の途中で途切れない
- ぐらつきがない
- 手が滑りにくい
- 始まりと終わりでもつかめる
- 荷物を持たず利用できる
手すりを使用するときは、本人が慌てず一段ずつ移動できるようにします。手すりを握ったまま身体だけ先へ進み、腕が後方へ残ってしまうような使い方では姿勢を崩す可能性があります。実際の動作を見て、無理のない位置で握り直せているか確認しましょう。
本人の身体状態によって適した手すり位置は異なるため、設置場所に迷う場合は福祉用具専門相談員や理学療法士、作業療法士などへ相談し、実際の階段昇降を確認してもらう方法があります。
階段では急がない
高齢者が階段を利用するときは、速度よりも一歩ずつ安定して移動することを優先しましょう。電話やインターホンが鳴ったとき、トイレへ急いでいるとき、家族に呼ばれたときなどは普段より動作が速くなり、足を十分に上げないまま次の段へ移ろうとすることがあります。
階段を上る際には足を次の段へ確実に置き、身体が安定してから反対の足を動かします。下りる際にも同様に、次の段へ足を置いたことを確認してから身体を移動させることが大切です。足元を確認せず勢いで連続して下りる方法は、身体機能が低下している人には負担になる場合があります。
| 場面 | 意識したいこと |
|---|---|
| 上り始め | 姿勢を整えてから進む |
| 上り途中 | 一段ずつ足を置く |
| 踊り場 | 方向転換を急がない |
| 下り始め | 最初の段を確認する |
| 下り途中 | 身体を急に前へ出さない |
| 最後の段 | 床まで確認して下りる |
本人が階段を急ぐ原因があるなら、その原因も取り除きましょう。例えば電話機を上下階に置く、トイレへ行く回数が多い人なら生活する階を見直すなど、階段を急いで移動する必要がない生活環境を作る方法があります。
家族が後ろから「早く」「大丈夫だから」と急かすことも避け、本人のペースで移動できるようにしましょう。
上りと下りの難しさを分けて確認する
高齢者の階段移動では、「上れるかどうか」だけを確認するのではなく、上りと下りを別々に評価することが大切です。上りでは身体を上方向へ持ち上げるため脚の力が必要になり、下りでは身体が落ちないよう支えながら次の段へ足を下ろす必要があります。そのため、上りより下りを怖がる人もいれば、反対に脚を持ち上げる上りを負担に感じる人もいます。
例えば、上りでは手すりを強く引きながら身体を持ち上げている、下りでは一段ごとに立ち止まる、身体を横向きにしているなどの動きが見られる場合があります。このような動作は本人が不安定さを補うために行っている可能性があるため、「もっと普通に歩いて」と直すのではなく、なぜその動作になっているかを確認します。
- 上りで足が上がらない
- 上りで手すりを強く引く
- 途中で何度も休む
- 下りを怖がる
- 段の端が見えにくい
- 下りで膝が崩れそうになる
上りだけ難しい場合、下りだけ難しい場合、両方難しい場合では必要な対策が変わります。また、右脚と左脚のどちらを先に出すと安定するかについても、痛み、麻痺、筋力など本人の身体状態によって異なります。
片脚に痛みや麻痺がある人へ一般的な順番だけを当てはめるのではなく、医療・リハビリテーションの専門職から本人に合った階段昇降方法を指導されている場合は、その方法を優先しましょう。
階段に物を置かない
階段の途中へ荷物や日用品を置く習慣がある家庭では、早めに見直しましょう。階段の端へ小さな荷物を置いただけでも、足を置ける面積が狭くなり、避けながら上り下りする必要が生じます。若い人には問題にならない程度でも、足を高く上げにくい高齢者や視力が低下している人には障害物になる可能性があります。
特に危険なのが、「あとで二階へ持っていこう」と階段へ衣類、新聞、箱などを仮置きすることです。本人が手すり側を避けて歩いたり、荷物をまたいだりすると、通常とは異なる足運びが必要になります。
| 置きやすい物 | 対策 |
|---|---|
| 衣類 | 階段以外へ置く |
| 新聞 | 収納場所を決める |
| 段ボール | 通路から撤去する |
| 掃除用品 | 収納場所へ戻す |
| スリッパ | 階段上へ放置しない |
| 電源コード | 動線を横切らせない |
階段だけでなく、階段の上端と下端の周辺も整理しましょう。最後の一段を下りた直後に物が置かれていると、着地した足を十分に動かせずバランスを崩すことがあります。
「本人が注意すれば避けられる」という環境ではなく、足元を細かく意識しなくても歩きやすい状態を保つことが転倒予防につながります。
足元を明るくする
高齢者が階段を利用する場所では、十分な明るさを確保することが重要です。厚生労働省が示す高年齢労働者の安全対策でも、視力や明暗差への対応力が低下することを前提として通路などの照度を確保することが挙げられています。家庭でも、段の境目が見えにくい暗さは避ける必要があります。
特に階段の照明スイッチが片側にしかない住宅では、暗い階段へ入ってからスイッチを探す状況が生まれることがあります。上下どちらから利用するときも、階段へ足を踏み入れる前に照明をつけられる状態が理想です。
- 階段全体を明るくする
- 上下から照明を操作できる
- 足元灯を検討する
- 人感センサーを活用する
- 電球切れを放置しない
- 強い影ができないようにする
また、階段の段板と周囲の色が似ていると、視力が低下した人には段差の境界が分かりにくいことがあります。テクノエイド協会の事故・ヒヤリハット情報でも、視覚機能の低下や暗い環境によって段差を確認しにくくなる可能性が示されています。
夜間にトイレなどで階段を利用する人では、寝室から階段までの通路も含めて照明を確認しましょう。
滑りやすさを確認する
階段の表面が滑りやすい場合は、足を置いたときに前後へずれて姿勢を崩す可能性があります。厚生労働省の高年齢労働者向けガイドラインでも、滑りやすい床や通路には防滑素材を採用することが対策として挙げられています。
家庭の階段でも、つるつるした表面、すり減った滑り止め、濡れた状態などがないか確認しましょう。階段用の滑り止めを利用する場合には、それ自体がめくれたり浮いたりしてつまずきの原因にならないよう、製品の取り付け方法を守ることが大切です。
| 確認場所 | 注意点 |
|---|---|
| 段板 | 表面が滑らないか |
| 段の先端 | 滑り止めを確認 |
| マット | めくれていないか |
| 水分 | 濡れたままにしない |
| ほこり | 定期的に清掃する |
| ワックス | 滑りやすさに注意する |
滑り止め用品を後から取り付ける場合には、段差が新たに生まれないことも確認してください。厚みのある物を部分的に貼ることで、足先を引っかける原因になる可能性があります。
本人がどこで足を滑らせそうになるか実際の動作を観察し、階段全体を確認しましょう。
階段に合う履物を使う
階段を上り下りするときの安定性には履物も関係します。かかとが固定されない履物、大きすぎるスリッパ、底が極端に滑りやすい履物などでは、足を持ち上げた際に履物がずれたり、段へ引っかかったりする可能性があります。
室内でスリッパを使用している高齢者の場合は、平らな廊下では問題なく歩けていても、階段で足を上げたときに脱げそうになっていないか確認しましょう。
- 足に合うサイズ
- かかとが安定する
- 底が滑りにくい
- 重すぎない
- 脱げにくい
- 段へ引っかかりにくい
ただし、どの履物が安全かは本人の歩き方や足の状態によって異なります。足に痛みや変形がある人、装具を使用している人などでは、一般的な室内履きが適さない場合もあります。
階段で何度もつまずく場合は履物だけを交換して終わらせず、足が上がっているか、視力に問題がないか、身体状態に変化がないかも確認しましょう。
荷物を持って上り下りしない
高齢者が階段を利用するときは、できるだけ両手または少なくとも手すりを握る側の手を自由にしておくことが重要です。洗濯物、飲み物、掃除用品などを持ったまま階段を移動すると、手すりを十分に使えなくなるだけでなく、荷物によって足元が見えにくくなることがあります。
特に大きな洗濯かごを抱えて階段を上り下りする習慣がある人では、視界の下側が隠れ、次の段を確認しにくくなる可能性があります。片手で重い荷物を持つ場合も身体が左右へ傾きやすくなります。
| 荷物 | 代わりの方法 |
|---|---|
| 洗濯物 | 家族が運ぶ |
| 飲み物 | 各階へ用意する |
| 掃除機 | 各階へ置く |
| 日用品 | まとめて家族が運ぶ |
| 衣類 | 生活階へ収納する |
| ごみ | 家族へ任せる |
階段を使う回数そのものを減らすため、頻繁に使用する物を各階へ用意する方法もあります。例えば二階にも飲み物やティッシュを置けば、小さな用事のたびに階段を往復する必要がありません。
「まだ荷物を運べるから大丈夫」ではなく、階段では手すりを使える状態を優先し、運搬作業と本人の移動を分けて考えましょう。
階段の手すりは使いやすい位置に整えよう
階段の転倒対策として重要な設備が手すりです。国土交通省の建築設計基準では、手すりについて利用時の動作を考慮した位置に設置し、握りやすい形状や材料を選び、体重がかかることを考慮した強度を確保することが示されています。
また、階段などの手すりはできる限り連続して設置する考え方も示されています。途中で手すりがなくなると、そこで握り直したり壁へ手を移したりする必要が生じるため、高齢者の階段では連続性にも目を向けたいところです。
既存の手すりがある家庭でも、本人が実際に使えているか確認しましょう。
本人が自然に握れる位置を確認する
手すりを設置するときは、一般的な高さだけで決めず、本人が階段を上り下りした際に自然に手を伸ばせる位置を確認することが重要です。低すぎれば身体をかがめる必要があり、高すぎれば肩を上げながら握ることになります。
また、本人がどちらの手で手すりを使いやすいかも確認しましょう。片側に麻痺や痛みがある場合には、身体状態によって必要な位置が変わります。
- 自然に手が届く
- 肩を上げすぎない
- 身体を傾けず握れる
- 上りでも使える
- 下りでも使える
- 本人の身体状態に合う
階段の幅や構造によって両側へ手すりを付けられない場合もあります。片側だけ設置する場合にどちら側が適しているかは、本人の身体状態や階段の構造を踏まえて判断しましょう。
手すり工事を検討する場合は、本人が実際に階段を使用する様子を施工業者や専門職に確認してもらうと、使いにくい位置への設置を避けやすくなります。
握りやすさと強度を確認する
階段の手すりには、身体を支えるための力が加わります。単なる飾りや軽い支えではなく、本人が体重をかけても安全に使用できる固定が必要です。国土交通省の基準でも、手すりには滑りにくさや壁などへの固定を含めた十分な強度を確保することが示されています。
既存住宅では壁の下地の位置などによって固定方法が変わるため、自己流で取り付けるより施工に詳しい事業者へ相談したほうがよい場合があります。
| 確認項目 | ポイント |
|---|---|
| 太さ | 握りやすいか |
| 表面 | 滑りにくいか |
| 固定 | ぐらつかないか |
| 連続性 | 途中で切れないか |
| 端部 | 衣服が引っかからないか |
| 壁 | 固定強度を確保できるか |
手すりの端部についても確認が必要です。国土交通省の建築設計基準では、端部を壁面側や下方へ巻き込むなど、先端が突出しない形状とする考え方が示されています。衣服やバッグなどが引っかかる形状は避けたいところです。
長年使用している手すりは固定部が緩んでいないか定期的に確認し、異常があればそのまま使わず修理しましょう。
介護保険の住宅改修も確認する
要支援・要介護認定を受けている人が自宅の階段へ手すりを取り付ける場合には、条件を満たせば介護保険の住宅改修費を利用できる可能性があります。厚生労働省は、介護保険の住宅改修の対象として手すりの取り付けを挙げています。
厚生労働省の通知では、住宅改修の手すりについて、廊下、便所、浴室、玄関などに転倒予防や移動・移乗動作を助ける目的で設置するものと説明されています。
- 要支援・要介護認定を確認する
- ケアマネジャーへ相談する
- 必要な位置を確認する
- 工事内容を確認する
- 自治体の手続きを確認する
- 着工前に制度を確認する
制度を利用する場合は、先に自己判断で工事を済ませないことが重要です。必要な手続きや対象となる工事について、自治体やケアマネジャーなどへ事前に確認してください。
介護保険を利用しない場合でも、本人の身体状態に適した位置へ安全に固定するため、階段の手すり工事は専門家へ相談して進めると安心です。
高齢者が階段を怖がるときは原因を確認しよう
以前は普通に階段を使っていた高齢者が、途中で立ち止まるようになったり、下りることを怖がったりする場合があります。そのときに「怖がらなくても大丈夫」と励ますだけでは問題を解決できないことがあります。
膝の痛み、脚の筋力低下、視力の変化、めまい、過去の転倒経験など、本人なりの理由が隠れている可能性があるためです。怖さがある状態で無理に階段を使わせると、身体がこわばり、かえって動きにくくなる場合があります。
どの場面で不安を感じているかを具体的に確認しましょう。
膝や脚の状態を確認する
階段の上り下りでは平らな床を歩くときよりも膝や脚を大きく使います。膝を曲げると痛い人や脚へ十分に力を入れられない人では、上りで身体を持ち上げることや下りで身体を支えることが難しくなる場合があります。
本人が「階段が怖い」と話していても、詳しく聞くと「下りるときに膝が痛い」「右脚へ体重をかけると力が抜けそう」といった具体的な問題が見つかることがあります。
- 膝に痛みがある
- 股関節に痛みがある
- 片脚へ力を入れにくい
- 足が上がりにくい
- 途中で疲れる
- 立ち上がりも難しい
階段だけでなく、椅子から立つ、玄関の段差を上がる、屋外の坂を歩くといった動作にも変化がないか確認しましょう。複数の動作が難しくなっているなら、身体機能そのものが変化している可能性があります。
痛みが続いている場合や急に脚へ力が入らなくなった場合には、無理に階段を使わせず医療機関へ相談してください。
段差が見えているか確認する
脚の力が十分にあっても、階段の境目が見えにくければ安全に足を置くことが難しくなります。高齢になると視力だけでなく、暗い場所への適応などに変化が生じることがあり、照明環境の影響を受けやすくなります。
テクノエイド協会のヒヤリハット事例でも、視覚の障害や暗い環境によって段差を確認しにくくなることがあり、段差を認識しやすくする工夫が安全につながるとされています。
| 状態 | 確認すること |
|---|---|
| 段の端が見えない | 照明を見直す |
| 影が強い | 照明位置を確認する |
| 色が同じ | 境界を認識しやすくする |
| 夜だけ怖い | 足元灯を検討する |
| 眼鏡が合わない | 視力を確認する |
老眼鏡など近くを見るための眼鏡をかけたまま階段を利用すると、本人によっては足元が見にくくなることもあります。普段どの眼鏡で移動しているかも確認しましょう。
階段以外でも物へぶつかることが増えた、段差を頻繁に見落とすなどの変化がある場合には、眼科などへの相談も検討してください。
転倒経験がある場合は無理をさせない
以前に階段で転倒したり、転びそうになったりした経験がある高齢者は、身体機能が回復していても階段を怖がることがあります。「手すりがあるから大丈夫」と無理に使わせると、恐怖によって身体が固くなり、普段とは異なる足運びになる場合があります。
まずは何が怖いのかを聞き、必要に応じて専門職に動作を確認してもらいましょう。
- 以前転倒した
- 踏み外した経験がある
- 下りだけ怖い
- 一人では使えない
- 手すりを強く握る
- 階段前で動けなくなる
本人が一人では階段を使わず、家族がいるときだけ利用するというルールに変更する方法もあります。生活上どうしても階段を使う必要があるなら、手すりや照明などの環境改善に加え、安全な昇降方法を確認します。
恐怖が強い場合には、「慣れれば大丈夫」と繰り返し使わせるより、生活する階そのものを変更することも選択肢です。
階段の介助は本人の身体状態に合わせよう
一人での階段昇降が難しくなった高齢者では、家族が付き添ったり身体を支えたりすることがあります。しかし、階段は平らな床と違って介助者自身も不安定になりやすく、支え方を誤ると本人と介助者が一緒に転落する危険があります。
特に体格差が大きい場合や、本人の膝が突然崩れる場合には、家族が腕力だけで支えることは困難です。階段での介助方法は麻痺や痛み、使用している杖や装具などによっても異なります。
家族だけで無理に方法を決めず、必要に応じて専門職から実際の階段で介助方法を教えてもらいましょう。
腕を強く引っ張らない
高齢者が階段を上れないとき、家族が上から腕を引っ張って持ち上げようとすることがあります。しかし、本人の身体が後方へ残ったまま腕だけを引くと、姿勢を崩したり肩へ負担をかけたりする可能性があります。
本人が自分でどこまで動けるかを確認し、介助が必要な場合は安全な位置や支え方について専門職へ相談することが重要です。
- 腕だけを引かない
- 急かさない
- 本人の動きを確認する
- 介助者も足元を見る
- 荷物を持ちながら介助しない
- 無理なら階段を使わない
本人がふらついたときに介助者がどこへ立つべきかについても、身体状態や階段の構造によって異なります。常に「上りは後ろ、下りは前」など一律の方法が安全とは限りません。
介助者が支え切れない可能性があるなら、階段昇降そのものを別の方法へ変更することを検討しましょう。
杖の使い方を専門職へ確認する
普段杖を使っている高齢者では、階段でも杖を利用したいと考えることがあります。しかし、階段では手すり、杖、足をそれぞれ動かす必要があり、平地より操作が複雑になります。
特に片脚に痛みや麻痺がある場合は、どちらの足から上るか、どちらから下りるかが身体状態によって重要になります。
| 確認項目 | 理由 |
|---|---|
| 手すり側 | 支え方に関係する |
| 杖を持つ手 | 身体状態で異なる |
| 足を出す順番 | 痛みや麻痺で異なる |
| 杖の長さ | 操作性に影響する |
| 杖先ゴム | 滑りに影響する |
| 装具 | 足運びに影響する |
自己流で杖を階段へ突きながら移動すると、杖先が段から外れたり、手すりを十分に握れなくなったりする可能性があります。
杖を使用している人は、理学療法士などへ実際の階段昇降を確認してもらい、本人の身体状態に合った方法を教えてもらいましょう。
介助者が支え切れないなら方法を変える
高齢者の身体を家族が抱えるようにして毎日階段を上り下りしている場合には、その方法を続けてよいか見直す必要があります。階段上で本人の膝が崩れたり身体が後方へ傾いたりすると、介助者一人の力では支え切れないことがあります。
階段昇降を補助する機器には階段昇降機などもありますが、製品ごとに利用条件や操作方法が異なります。テクノエイド協会のヒヤリハット情報でも、可搬型階段昇降機は介助者が階段上でバランスを取りながら操作するため、本人の動きによってバランスを崩す可能性があることが示されています。
- 家族が持ち上げている
- 膝折れがある
- 介助者もふらつく
- 本人の体格が大きい
- 毎日の介助が負担
- 転びそうになった経験がある
階段昇降機を検討する場合も、「機械があれば家族だけで使える」と自己判断せず、適合確認や使用方法の指導を受けることが重要です。
階段を安全に使うことが難しい状態なら、生活する階を変更する方法も含めて検討しましょう。
階段が難しくなったら使わない暮らしも検討しよう
高齢者の階段対策というと、手すりや滑り止めを追加して何とか上り下りを続けてもらうことを考えがちです。しかし、身体機能が大きく低下している人では、階段を安全に使えるようにすることより、階段を使わなくても生活できる環境へ変えるほうが適している場合があります。
国土交通省の高齢者が居住する住宅の設計に係る指針でも、高齢者の日常生活空間や移動に伴う転倒・転落防止を考慮する考え方が示されています。寝室、トイレ、食事場所など日常的に使う場所を同じ階へまとめれば、階段の利用回数そのものを減らせます。
「二階へ上れなくなると衰える」と決めつけず、安全性と本人の生活のしやすさを優先して考えましょう。
生活する場所を一階へまとめる
二階に寝室があり、一階にトイレや食事場所がある住宅では、起床、食事、入浴などのたびに階段を利用することがあります。階段が不安定になってきた人では、寝室を一階へ移すだけでも階段を使う回数を大幅に減らせる場合があります。
一階で生活を完結できるか、必要な設備を確認しましょう。
- 寝る場所
- トイレ
- 食事場所
- 洗面場所
- 衣類の収納
- 日用品の収納
寝室だけ一階へ移しても、着替えや日用品を二階へ置いたままでは、物を取りに行くため階段を利用してしまいます。本人が毎日使用する物も一緒に移動することが重要です。
住宅の間取りによって一階生活が難しい場合は、ケアマネジャーや福祉住環境に詳しい専門家へ相談し、住宅改修や福祉用具を含めて検討しましょう。
階段昇降機は設置条件を確認する
階段を歩いて上り下りすることが難しくても上下階を利用する必要がある場合には、階段昇降機を検討するケースがあります。住宅へ固定するいす式のものや、介助者が操作する可搬型などがあります。
ただし、階段の幅、曲がり方、踊り場、乗り降りする場所の広さなどによって設置や利用の可否が変わります。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 階段幅 | 機器を設置できるか |
| 階段形状 | 直線か曲線か |
| 乗降場所 | 安全に移乗できるか |
| 本人の座位 | 安定して座れるか |
| 操作 | 誰が行うか |
| 停電時 | 対応方法を確認する |
本人が昇降機へ乗り移る動作を安全に行えるかも重要です。階段を歩かなくて済んでも、乗り降りの際に転倒するようでは十分な対策になりません。
導入する場合は、専門事業者に現場と本人の利用状況を確認してもらい、使用方法について説明を受けましょう。
急に階段を使えなくなった場合は受診も考える
少しずつ階段がつらくなった場合と、昨日まで上れていたのに突然上れなくなった場合では対応が異なります。急に片脚へ力が入らない、強い痛みがある、めまいがするなどの変化があれば、手すりを増やして様子を見るだけではなく身体状態の確認が必要です。
特に急な麻痺や言葉の異常などを伴う場合には、緊急性のある病気の可能性もあるため速やかな対応が必要です。
- 急に片脚へ力が入らない
- 急に歩けなくなった
- 強い膝や股関節の痛み
- 転倒後から動けない
- めまいが強い
- ろれつなどにも変化がある
徐々に難しくなった場合でも、階段以外の歩行や椅子からの立ち上がりにも変化があるなら、医療・介護の専門職へ相談するきっかけになります。
「高齢だから階段がつらいのは当然」と考えず、変化の時期と程度を確認しましょう。
手すりと住環境を整えて安全な階段移動につなげよう
高齢者が階段を上り下りするときは、本人へ注意を促すだけではなく、手すり、照明、滑りにくさ、履物、荷物など周囲の環境をまとめて確認することが重要です。特に手すりは、本人が自然に握れる位置にあり、途中で使いにくくならず、身体を支えられる強度が確保されているかを確認しましょう。
上りと下りでは身体の使い方が異なるため、「階段を上れるから問題ない」と判断しないことも大切です。下りだけ怖がる、片脚を出すときに止まる、手すりを強く引っ張る、途中で何度も休むといった変化があれば、その理由を確認してください。膝や股関節の痛み、筋力低下、視力の変化などが影響している場合もあります。
杖を使っている人や介助が必要な人では、自己流の方法で階段を利用し続けることにも注意が必要です。本人の身体状態によって安全な足の運び方や支え方は異なるため、理学療法士や作業療法士などへ実際の動作を確認してもらうと安心です。家族が本人を抱えるようにして階段を移動している場合には、介助者も一緒に転落する危険を考え、別の方法を検討しましょう。
要支援・要介護認定を受けている人では、条件を満たす手すりの取り付けなどが介護保険の住宅改修の対象になる可能性があります。制度を利用したい場合は工事を始める前にケアマネジャーや自治体などへ相談し、必要な手続きを確認することが大切です。
そして、階段を安全に使うことが難しくなったときは、上り下りを続けることだけにこだわる必要はありません。寝室や日用品を一階へ移し、トイレや食事場所と同じ階で生活できるようにする方法もあります。本人の自立を保つことと危険な動作を続けることは同じではありません。身体状態の変化に合わせて住まい方も見直し、無理なく安全に生活できる環境を整えていきましょう。

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